コミュニケーション教育の現状と課題

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文部科学省は2010年5月にコミュニケーション教育推進会議を設置して、子どもたちのコミュニケーション能力の育成を図るための具体的な方策や普及のあり方について議論を進めてきました。その検討のまとめは2011年8月29日に『子どもたちのコミュニケーション能力を育むために~「話し合う・創る・表現する」ワークショップへの取組~』審議経過報告として公表されています(PDFファイル)

 

 その中で芸術家等の表現活動の専門家によるワークショップ型の授業は、子どもたちの他者認識、自己認識の力、伝える力の向上、自己肯定感と自信の醸成につながるとし、教員にとっても、通常の授業手法や評価方法を見直し改善する機会となり、学級の雰囲気の改善により学級経営や学年経営の円滑化につながると指摘されています。

 

 実践例についての報告や紹介がなされ、このような授業が注目されるようになっていますが、課題としては、実施されている学校がまだ少ないということが指摘できます。2010年度に文部科学省・文化庁の施策として実施された「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」事業は、45都道府県292校、2011年度では学校申請分は25都道県83校、団体申請分で16都市県98校です。教育委員会や学校独自で実践している例を含めても、全国およそ30000校ある学校のなかで、このような授業を実施している学校数は数パーセント程度と推測されます。

 

実施校が少数にとどまっている理由は、いくつか指摘できます。第一に、このような授業が教員たちに十分に知られていないということが挙げられます。第二に、実施したいと先生が希望しても、誰に頼んだらいいのか、申請手続きはどうしたらよいのか、実施までのノウハウが知られていなかったり、手続きが煩雑であるために多忙な先生の手に余るということがあります。そして実演家による授業にこだわるならば、そのような実演家が居住している地域が大都市圏に限定されている傾向があるということです。現状では、首都圏域の実演家が地方に通って実施している例が多いようです。北九州芸術劇場や劇団あしぶえ・しいの実シアター(島根県松江市)のように、地元の実演家を学校に派遣している例もありますが、一定期間だけの滞在型を含めても、地元の芸術家による実施はまだまだ少ないようです。大勢の児童生徒を対象にワークショップ型授業を実現していくには、地域にそのような指導のできる実演家が居住もしくは長期滞在できるような支え方が必要ではないでしょうか。

 

ワークショップ型の授業の有効性については文部科学省も周知に努めようとしていますし、徐々に関心は高まっていくでしょうが、指導できる実演家と教員との豊かな協働をどう実現していくのかという課題は残ります。「実演家が学校に出向く」という実施形態だけでは、どのような教育活動が行われているか内容がわかりません。実際に、ちょっとした実技のデモンストレーションを見たり講話を聴くことが中心の授業と、コミュニケーション能力の育成に主眼を置いた授業とをどのように識別するのか難しい点もあります。各地での実践の質の維持・向上のための研修や経験交流なども促進される必要があるでしょう。

 

子どもたちのコミュニケーション能力育成に効果のある方策ならば、あらゆる地域の子どもたちが、そのような授業を体験できることが望まれますが、全都道府県でこのような実践ができる環境づくりは、まだまだ整っているとはいえないのが現状です。教員、教育委員会など教育関係者はもとより、コーディネートに関与する芸術団体や劇場、音楽堂等、そして実演家等が連携して環境の改善に努めていくことが望まれます。

 

  【参考】文部科学省が、<演劇メーカー>というサイトをオープンしました。