なぜ実演家が表現教育にかかわるのか

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心と心のキャッチボール


 舞台芸術・芸能は、演じ手と観客が心を響かせ合うことによって成立します。心と心のキャッチボールは、俳優や演奏家、舞踊家、演芸家などの実演家が得意とするところです。だから、そのような実演家の特性を活かして、子どもたちに「表現教育」の指導者として学校の先生と協働していくことはできないだろうか…!? 芸団協では、1996年に中央教育審議会が第一次答申で「生きる力」に言及してから、子どもたちの表現力、コミュニケーション能力、創造性を高めることに実演家が関与できないかと、セミナーを開催して研究を開始し、2000年から「芸能と教育プロジェクト」と称して、学校と芸能実演家との協働のあり方を模索してきました。

 

 

「生きる力」って何? ~教育理念との関係で


 1996年、文部省の中央教育審議会の第一次答申の中で、次のようなくだりがあります。「我々はこれからの子供たちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考えた。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は、こうした資質や能力を、変化の激しいこれからの社会を[生きる力]と称することとし、これらをバランスよくはぐくんでいくことが重要であると考えた。」
 これを受けて平成10年(1998年)の学習指導要領の改訂時に、「総合的な学習の時間」が設けられるようになりました。平成20年(2008年)の新学習指導要領でも、引き続き「生きる力」を育むという理念は堅持されており、知識や技能の習得とともに、思考力・判断力・表現力等が求められる「知識基盤社会」の時代においてますます重要な役割を果たすものであるとされています。

 

 

芸術教育と同じ? 違う?


 「生きる力」を育む教育は、何も芸術に限ったことではありません。けれども、知識注入型ではない学習、つまり、子どもたちが自ら自発的に取り組み総合的に判断したり表現したりする学びの活動に、芸術の持つ力が効果を発揮するということが、さまざまな経験から報告されています。美術、音楽などの従来の芸術教育もさることながら、近年は、子どもたちが表現するプロセスを重視していくワークショップ型の授業が注目されるようになっています。机の上での学びだけではなく、からだを動かしたり、仲間とともに協働する活動を通して、子どもたちがいろいろなことを自ら発見していく学習プロセスが、個々の主体性を育むのによいというのです。
 演劇的な手法、ドラマ教育、表現教育など呼称はさまざまですが、子どもたちの全人的成長を芸術を通じて行う取組みじたいは、実は大正時代の新教育運動まで遡ることができます。童謡や児童文学とともに学校劇が盛んになった時もあったのですが、官僚統制が厳しくなり芸術教育が難しい時代に突入しました。戦後、芸術表現を体験し、人間の思考や感情の内面を豊かにしていくことが主体性のある人間形成を促すという考え方は、様々な教育につながって発展してきています。
芸団協では、そのような先行例に学びつつ、俳優や舞踊家、演奏家などの実演家が、学校教育の現場に関与できないかと試行錯誤を重ねてきました。演劇、音楽、舞踊あるいは美術などという芸術分野に分化する前段階として、特定の芸術分野にこだわることなく、「表現する」プロセスを大切にする教育という意味で、「表現教育」という言葉を用いています。

 

 

ココロとカラダとアタマをつなぐ

 

 ワークショップ型の授業の効果に着目して、自ら実践している学校の先生もたくさんいます。でも、芸団協ではとりわけ実演家がそのようなワークショップ型の授業を行うことにこだわってきました。
実演家が外部講師として子どもたちに関わると、いつもの授業とは違った活動が実現しやすくなります。実演家は、子どもたちの反応、表情の変化などをキャッチして、芸術に携わる専門家ならではの反応を返すことができます。国語や算数といった教科で求められる「わかる」「できる」ではなく、オモシロイ!という心の動きを捉えていくのです。感じることに正解も不正解もありません。だから、誰でも臆することなく主体的に参加することができます。カラダをつかって、仲間と気持ちを通じ合わせる快感を味わいながらの活動は、アタマでわかるだけでなくココロでわかることにつながります。そうした活動で味わった達成感が子どもたちのやる気につながり、教科の学習意欲にも好影響を及ぼすようです。実演家という外部からの風が、子どもたちによい刺激を与えられるのだと思います。