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インタビュー「あの先生の “キッズ時代”」辻井八郎先生(謡・仕舞)

2020.11.11 コラム

先生たちの”キッズ時代”や”たからもの”にまつわるエピソードを紹介する新企画。
お稽古場ではなかなか見えない先生方の「素顔」を、少しだけお伝えしていきます。

今回は、11月2日にお稽古が始まった 能楽/謡・仕舞コースの辻井 八郎(つじい・はちろう)先生です。
普段は穏やかな辻井先生に、ご自身の”キッズ時代”についてお話を聞きました。


みんなが知らないことを覚える楽しみ

— お稽古を始めたきっかけを教えてください。

能楽師はその家で代々継いでいくことが多いなかで、私の場合は、母が素人からプロの能楽師になったこともあり、5歳の時に兄と一緒に始めました。能のセリフは室町時代からの言葉が多く特別な感じがして、みんなが知らないことを覚える楽しみというか、「もしかしたら学校の先生も知らないんじゃないかな?」と思いながら、お稽古をしていましたね。また、授業中に教科書を読むと「きみは声が大きくていいね! 姿勢もいいね!」と先生に褒められたりするのもうれしかったのだと思います。
初舞台は、能の子方(こかた/子役を演じる子供のこと)で、小学校2年生の時でした。不思議なことに「ここはちゃんとやらなきゃいけない」というか、「プロの舞台に立っているんだ」という意識があったように記憶しています。


photo:横山紳一独立披露能より 能「船弁慶」(昭和51年2月) 撮影:辻井清一郎

能楽と総合格闘技!?

— その後は“能楽ひとすじ”だったのでしょうか。

学生時代は普通に運動部にも入っていましたし、総合格闘技をやったこともあります。いわゆる関節技とかをやるアレですね(笑)。いまは時間がなくて通えなくなってしまいましたが、好きで40歳過ぎまで続けていました。
はじめた頃、周囲から「初心者にしては良くできるね」と言われました。それは、きっと能には“構え”があるので、ほかの人よりも身体の色々なところに神経をめぐらせているためではないかと思います。たとえば、能面を付けると(目の穴が小さくて)視野が狭く、ほとんど見えない状態で舞うことになります。空間をイメージして、動かねばなりません。そういう習慣が身についているせいか、格闘技で相手と組んだときに、相手がどういう風に動こうとしているのかを感じることができるんです。能を続けていたから、そういう感覚が養われたのではないかと思いました。

自分ができるところを見つけよう

— お稽古を始めた子供たちへメッセージをお願いします。

まずは挨拶を大切にしましょう。能舞台は何年もかけていろいろな人が立ち、いろいろな人の思いが詰まっていることを感じてほしいと思います。「こういう形で、こういうやり方で」と伝えていくことが伝統なのですが、人から人へと伝えていく間に自然と変わっていく部分もあり、そこも魅力です。お稽古のなかで学ぶ能のセリフや舞、動きなどを通して、皆さんも心のなかにそれぞれ新しいものを発見していくことでしょう。
もし、お稽古中に「なかなかできないな」と思ったら、自分ができるところを伸ばすつもりで「ここだけだったらがんばれる」というところを見つけてください。たとえば、「手をあげるところだけは、誰よりもカッコよくできる」と思ったら、そこに命をかけて挑戦してみてくださいね。それがお稽古です。[談]

  
photo:(左)能「井筒」シテ/(右)仕舞 撮影:辻井清一郎(いずれも)

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