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インタビュー「あの先生の “キッズ時代”」深田博治先生(狂言)

2021.01.20 コラム

先生たちの “キッズ時代” や “たからもの” にまつわるエピソードを紹介するシリーズ企画。
お稽古場ではなかなか見えない先生方の「素顔」を、少しだけお伝えします。

今回は、能楽/狂言コースの深田 博治(ふかた・ひろはる)先生です。
実直なお人柄にもどこかおかしみをたたえる深田先生に、ご自身の “キッズ時代” についてお話を聞きました。


スポーツ少年、演劇に目覚める。役者を目指してもがいた日々

— 狂言に出会うまでは、どのようなことに興味がありましたか?

小学生の頃はプロを夢見る野球少年でした。肘を痛めたこともあり、中学・高校時代はバスケットボール部に所属して練習に明け暮れました。高校卒業と同時に大分県から上京し、新聞配達などのアルバイトで学費を稼ぎながら予備校に通っていたのですが、いつのまにか仕事ですっかり疲れてしまい勉強が二の次に。何か目標を立てて受験に挑もうと思い直しました。当時、“夢の遊眠社”という人気の劇団があり、その公演の宣伝をラジオで繰り返し耳にして「よし、合格したらこの芝居を観に行こう!」とチケットを手に入れて。なんとか大学に合格して、一緒に上京した悪友と観に行ったのですが・・・・・・そこで芝居にハマってしまったんです。「僕もこんなことをやりたい!」って。
大学に進むと劇団をつくり、途方もない夢を語っていました。でも、なかなかうまくいかず、きちんと演劇の勉強をしようと正統派のシェイクスピアシアターに通ってみたり、商業演劇のオーディションを受けてみたり。テレビで活躍する俳優と一緒に舞台に出演する機会も得て、ここで足掛かりをつかみたいと思ったのですが、自分には芸能界の人づきあいが合っていないことに気がつきました。
そこで、まずは大学の勉強に真面目に取り組もうと思いました。写真は神道(しんとう)の実習で箱根神社にこもって修行した時のもの。神主の資格を取りました。僕は神職につけるんです(笑)。


photo: 神社にこもって神主修行。上段左から2番目が深田先生。

つい言ってしまった! そこからは狂言の道を一直線

— 先生は、大学生の時に狂言の道へと進まれました。

卒業の頃、伝統芸能の伝承者を養成するために、国立能楽堂が能楽(三役)の研修生を募集していることを知りました。役者への道を諦められず、無料で基礎を学んで古典を身につけたら武器になる、と考えて受験。試験会場には能楽界の名だたる先生方が並んでいたのですが、僕はどなたも知らなかった。一人だけ、「CMで見たことがある!」と知っていたのが野村万作先生(狂言師、人間国宝。のちの深田先生の師匠)。万作先生が主に質問をしてくださり、芝居の話をしました。その流れで、つい「狂言をやりたいと思って来ました!」と言ってしまったんです。そうしたら、もういきなり狂言をやらなくてはならないことに。ちょっと身につけて使えることがあれば、くらいに思っていたものですから、始まってみたら、これがなかなか・・・・・・厳しい道でした。当然ですね。
ただ、師匠の『三番叟(さんばそう)』の舞台を観たとき、「これはすごいぞ。いつかこの曲をやってみたい!」と強く思いました。当時はまだ “路上パフォーマンス” でも出来そうだし、という程度の考えでしたけれど(笑)。

*『三番叟』能の『翁』で狂言方が務める一役。五穀豊穣を祈る。



photo: 若き頃の深田先生。師匠からお稽古をつけてもらう(於:野村万作家稽古舞台)
資料提供:あかね書房(『なりたい自分を見つける! 仕事の図鑑』より)

諦めずにしがみついた先にこそ、得るものがある

— お稽古をがんばっている子供たちへメッセージをお願いします。

実は、『三番叟』を務めるには10年は修行を続けねばなりません。僕がようやく挑戦させてもらえたのは、お稽古を始めて9年目のこと。振り返ると、本当におよそ10年の月日が経っていました。狂言の道に進む覚悟を決めたときからは、「あの曲をやりたい、この曲もやってみたい」という思いが次から次へとわいてきて、現在に至っています。
できないことがあったとしても、諦めずにやる。狂言は古典ですから、いままでやってきたこととはまったく違うことを学ぶわけです。当然、壁にぶち当たります。諦めることは簡単ですけれど、少しずつでも師匠や自分の立てた目標に近づけるよう粘り強くしがみついていくことが、こういう世界では特に大切です。続けていると、振り返ったときに「あれ? いつの間にかできるようになっている」ということが意外とあるものです。僕もいまでもそうですから(笑)。 [談]


photo: 第十四回 狂言ざゞん座『子盗人』より(2019年)撮影:吉川信之

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