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2015.06.06

アーツマネジメント連続講座 講座②『事業企画をつくる』5月19日レポート

講座2 能祖講座②『事業企画をつくる』2日目は、能祖將夫さん(北九州芸術劇場プロデューサー/桜美林大学芸術文化学群専任教授)を講師にお迎えし、市民参加企画型の事業企画のお話を中心に伺いました。

能祖さんは、大学卒業後すぐに劇団四季に入社。その後、こどもの城 青山劇場・青山円形劇場のプロデューサーを経て、北九州芸術劇場では2001年の開設準備室設立の時からプロデューサーを務められています。また、一般財団法人地域創造公共ホール音楽活性化事業(通称名:おんかつ)を通して沖縄の公共文化施設ともゆかりが深く、名護で事業実施の思い出もお話しされました。

 能祖さんは、「舞台芸術の特徴」として「集団でつくる」、「目の前に観客がいる(時間と空間を共有)」を挙げました。当たり前のことに思われますが、ひとつの作品を作り上げていく過程で、自分以外の他者がいるという事実を受け止めること、お互いの意見とその相違を認め合うことはとても重要です。制作者にコミュニケーション能力が求められる所以はここにあります。

かつて、舞台芸術は観たい人だけが観ればいいという「趣味の領域」として語られてきました。しかし、税金によって公立文化施設が建設され、また公演にも助成などの公的な資金が投入されるようになり、舞台芸術にも「公共性」が求められるようになってきました。

「舞台芸術には趣味を超えた力がある」ということを言葉で説明する必要が生じている、と話す能祖さんのお話は、舞台芸術が社会にとっていかに有効・有用であるかを自分の言葉で説明することの重要性を語られた石田麻子さん(講座①)にも通じます。

そして、市民参加型企画を推進するに当たっては「文化芸術の創造や享受の機会の平等」や「地域の歴史・風土を反映した文化芸術の発展」について定めた『文化芸術振興基本法』(2001年施行)の基本理念を振りかえることがとても重要だとおっしゃいます。

昨今では地域による文化格差が大変深刻な問題になっています。
ここで、国内で開催されたクラシック音楽の公演データが示されました。全体の何%が東京23区内で行われたと思いますか?という問いに、受講者が答えます。
少し古いデータではありましたが、なんと全体の75%のコンサートが東京23区での実施。これは圧倒的な文化格差です。

 

これらの問題意識を背景に、能祖さんが各地で実施されてきた取り組みについて、映像を見ながら紹介します。

講座2 能祖まずは、神奈川県相模原市にある桜美林大学プルヌスホールの『群読音楽劇 銀河鉄道の夜』。
プルヌスホールは、演劇やダンスを学ぶ芸術文化学群の学生と、桜美林大学パフォーミングアーツ・インスティテュート(舞台芸術研究所)が共同で管理・運営する、大学内にある劇場施設です。
『群読音楽劇 銀河鉄道の夜』は、オーディションによって選ばれた市民と桜美林大学生がともに作り上げていく舞台で、2007年から毎年8月に実施されており、今年で9回目を迎えます。稽古初日から公演最終日までが夏休み期間中の11日間という、非常にコンパクトな日程で実施されます。
多様な世代の市民が参加できるようにするためには、企画段階での期間の設定も重要なファクターとなります。また、こういった作品が「発表会」ではなく、舞台芸術として高いレベルに到達した「公演」である点も特筆に値します。


続いて、北九州芸術劇場の『合唱物語 わたしの青い鳥』。
この作品も今年で12年目を迎える長寿作品です。作品を次から次へと使い捨てるのではなく、劇場の顔となるようなレパートリーを持つことが大切です。
この作品が長く続いている秘訣は、先述の『銀河鉄道の夜』とは逆に、練習日程を分散させていること。毎週金曜日と土曜日の2日間ずつ、計14日間のワークショップにすることで、家庭を持った主婦の方でも参加しやすくしています。参加者にリピーターが多いことも、作品のレパートリー化に功を奏しています。

 

続く『神楽オペラ SHINWA』は、大分県にある豊後大野市総合文化センター・エイトピアおおのが、一般財団法人地域創造の「公共ホール音楽活性化事業応用プログラム」の支援を受けてつくった作品です。公共ホールが地域活性化を主眼に置いた公演を行う際は、こうした助成を上手に利用することを視野に入れて企画立案をすることも必要です。
この作品は、9歳から76歳までの公募市民合唱団、地元の神楽社、プロの声楽家、ピアノとお囃子といった様々なバックグラウンドを持つ出演者たちが、約1カ月の集中稽古で作り上げます。高い評価を受けた作品でしたが、残念ながら継続実施には至らなかったそうです。

 

市民参加企画型の事業企画で重要なのは、その地域にどのような人々がいて、どのようなドラマがあるのかをしっかりとリサーチし、その上でその人たちと何を作り上げていきたいかを考えること。基本的なことですが、意外と見落とされがちだと能祖さんはおっしゃいます。

 

講座終了後には、様々な事例を知り、エイサーと他分野を融合させた作品がつくれないだろうかと相談される方もいました。
沖縄を起点とした新たな挑戦が始まる予感がしました。

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