GEIDANKYO 公益社団法人 日本芸能実演家団体協議会[芸団協] 芸能花伝舎 沖縄県

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2017.08.10

21世紀を担う、「創造的な働き方」と「多様性がある地域」の可能性とは《アーツマネジメント講座2017 講座9(7/28)レポート》

「沖縄の文化芸術を育てるために、地域が一丸となる」

講師と受講生が一緒に、沖縄の観光産業を生かした、人と人をつなぐ新たな文化の創出を考える「アーツマネジメント講座」。

前回は、契約と著作権をテーマに「契約とはお互いがウィン・ウィンの着地点を見つけるもの」「電子メールやディール・メモの活用方法」「著作権を確認する意義」などを学びました。

今回のテーマは、「芸術文化が都市の起爆剤に! 世界のクリエイティブ・シティと日本の取組み」。

「創造都市ネットワーク日本」の顧問を務める、佐々木雅幸さんをお招きして、「これからの創造都市の可能性」「職人のような働き方が生む価値」についてお話ししてもらいました。

“オペラ”のような働き方が都市文化の課題を解決していく社会に

佐々木雅幸さん。同志社大学経済学部特別客員教授。「創造都市と創造経済にかんする国際比較研究」を研究テーマに、「文化芸術による都市・地域の再生」を教える。文化庁地域文化創生本部主任研究官、創造都市ネットワーク日本の顧問も兼任。主著に『創造都市の経済学』などがある。

「これからの社会では、人は“オペラ”のように働いていく」

オペラと聞くと、一般的に舞台芸術をイメージしますが、イタリア語では「仕事」や「作品」という意味もあります。そこから転じて、「ものづくりに携わる職人のような、創造的な働き方」も指すようになったといいます。

「20世紀は、工業社会を中心に成長してきましたが、21世紀に入り、世界的に格差が広がり、資本主義が行き詰まりを見せるようになります。リーマンショックの影響もあり、金融よりも『アート』や『創造性』に価値が置かれるようになってきました。

『市民一人ひとりが創造的に働き、暮らすことがイメージできる都市をつくろう』という『創造都市』の動きが広がってきているので、これからはオペラのような働き手も少しずつ定着するんじゃないかと予想しています」

創造産業は、「広告」「建築」「美術及び骨董品市場」「デザイナー・ファッション」「映画・ビデオ産業」「音楽産業」「舞台芸術」「出版」「ソフトウェア」「コンピューターゲーム及びビデオゲーム」「テレビ・ラジオ放送」「工芸」「デザイン」といった13分野からなる。

創造都市の流れを特徴づけたのは、イギリスのトニー・ブレア元首相が提唱した「Creative Britain(クリエイティブ・ブリテン)」の取り組みです。13分野の創造産業を推進・振興を促進させ、停滞期にあった都市の突破口にしようと考えました。結果として、ICTとクリエイティブ産業が発達し、若者たちが活躍できる隙間をつくることに成功しました。

「クリエイティブ・ロンドン政策を通して、『都市ブランドの再確立』『衰退地区の再生とホームレスの自立支援』『学習態度・教育環境の改善と学力の向上』が実現しました。その結果、文化とスポーツの祭典として成功事例に挙げられる、ロンドンオリンピック(2012年)の礎を築きました」

従来の文化産業の評価は、「市場性に乏しく、補助金に依存する」というものでしたが、ICTの活用により、メディアアーツなど仕事と富を産む領域が増えてきました。大切なことは、はじめからマーケットに任せるのではなく、先端的なアートを人類にとって普遍的な価値を産むものとして捉え、国や地域が支援していくことです。

開放的で、寛容さや多様性がある環境が、「創造性が富む地域を作る」

「りっかりっか*フェスタ2017」のタイアップで企画された本講座には、県内の行政担当者や制作担当者に加え、県外からの参加者方も、佐々木さんの話に耳を傾けた。

資本主義経済の発展に伴う大量生産や大量消費によって経済を成長させてきたアメリカ。1980年代以降、自動車産業が衰退を見せはじめ、2013年には自動車の街と呼ばれた「デトロイト市」が財政破産します。

このような資本主義社会の限界に直面したことをきっかけに、創造都市を加速させることが、アメリカで流行となります。

工業経済と創造経済との違いについて、「大規模生産からフレキシブル生産」「大量流通からソーシャルネットワーク」「非個性的な大量消費から個性的なものづくり・個性的な文化的な創出」があるという。

大量生産・大量消費の社会構造が限界を迎えはじめた頃、アメリカの社会経済学者のR・フロリダが著書『The Rise of the Creative Class』(2002)で、「クリエイティブ・クラスが経済成長の新たな鍵になる」と提唱しました。クリエイティブ・クラスとは、ブルーカラーやホワイトカラーといった階級分類とは違う新しい価値を創造できる人たちのことを指します。

さまざまな技術や才能を持つクリエイティブ・クラスの人たちを惹きつけるのは、開放的で、寛容さや多様性がある環境です。佐々木さんは、それらが整えば「創造性に富んだ地域が生まれていく」と話します。

例えば、サンフランシスコやシリコンバレーはLGBTを受け入れる寛容さを持っていたからこそ、さまざまな文化や人種、社会グループが交流し多様性が生まれ、その環境に惹かれてクリエイティブ・クラスが集うようになったと言います。

オペラが集い、社会課題を解決する街づくり

ユニバーシティと呼ばれる大学の起源は、1088年頃にボローニャにできた自発的な塾だという。塾を中心に、周辺地域には商工業が発展して、学生のための下宿先など、ボローニャの街並みが作られていった。

ユネスコの創造都市ネットワークは、現在世界54の国と116の地域で構成されています。その中で、佐々木さんが注目する都市はボローニャだといいます。

「私は、17年前にボローニャ大学に留学していましたが、役人も市民も街全体がオペラのように働いていると感じました。職人たちのように、自分の頭で考えて、自分が手で作品に仕上げることで、創造力が育まれていくのです」

自動車メーカーのフェラーリやランボルギーニ、オートバイのドゥカティなどは、ボローニャ市とその周辺地域から生まれた。「オペラは、大量生産のモノづくりは下手だけど、超高級品を作らせたら超一流なんです」。

ボローニャでは、オペラが街中に拡がり、協働しながら課題解決を行うことで、街づくりに貢献してきたと佐々木さんはいいます。

「例えば、精神的なダメージを負い、路上生活を余儀なくされたホームレスと一緒に舞台を作る友愛劇団という取り組みがありました。そこでは、入居したホームレスと一緒に演劇に取り組み、舞台公演まで成功させて、自律性を促し、生きる力を与えています」

クリエイティブ・クラスの1つに挙げられる芸術家たちが、ホームレス、障がい者、高齢者などの生きがいをつくり、街全体を支えているのです。

現代芸術と伝統芸術との可能性が、これからの創造的な政策を作る

2004年にできた金沢21世紀美術館は、「新しい文化の創造」と「新たなまちの賑わいの創出」を目的に、金沢市役所の隣に建設された。

「伝統工芸・伝統芸能の街」と呼ばれる金沢市は、現代美術が持つ力をどのように市民に伝えて、接点を作るのかが課題でした。

佐々木さんは、1985年に金沢大学助教授となって以降、金沢市で創造都市の政策を応援してきました。とくに、現代芸術や工芸を取り上げてきた「金沢21世紀美術館」では、気楽に現代アートを楽しめる工夫を凝らして入場数も、10年間を通して、美術館の入館数はほとんど減らず、開館後と比較して2.5倍に増えたといいます。また、3Dプリンターで器をつくるなど、工芸と先端テクノロジーの融合を試み、「未来工芸」という新分野に挑戦しています。

さらに、金沢市はユネスコの「創造都市ネットワーク」で世界ではじめてクラフト分野で創造都市に認定(2009年)されて、市立美術工芸大学の学生たちを巻き込んで、金沢版のクリエイティブ・ツーリズム「クラフト・ツーリズム」を始めるなどへとつながっていきました。

2004年に、ユネスコが「創造都市ネットワーク」のプロジェクトを開始し、日本では創造都市の発想から生まれた「創造農村」の事例(徳島県の神山町など)が生まれた。

日本は観光立国を掲げて、インバウンドの誘致を進めています。一方で、京都市や金沢市といった町には想定以上の観光客が来訪して観光公害問題も生じています。その反省を踏まえ、観光の形も大衆化する観光行動「マス・ツーリズム」から、新たな土地の魅力を引き出す観光「クリエイティブ・ツーリズム」に変化しつつあると言います。

「京都市や金沢市の例をきっかけに、地域のアーティストや職人たちに教わりながらツーリストがものづくりを体験したり、そこで作品を購入したりする『クリエイティブ・ツーリズム』が進められています。観光客も、地元に住むアーティストもウィン・ウィンの関係性を作っていければと思います」

2013年には、創造都市の普及・発展を図るためのプラットフォームとして「創造都市ネットワーク日本」がスタートし、2017年には沖縄県の石垣島が参加するなど、加盟地域は年々増えて100自治体に近づきました。さらに、クリエイティブな動きは、日本社会の中心である東京より、むしろその周辺から起きていると言います。

「東京などは、アーティストが多い割に、凡庸で世界のモノマネで終わってしまうことも。それに比べて、過疎地や離島で活動するアーティストやクリエイターは、大胆な活動を見せているんです」

大都市(東京など)から離れた沖縄、さらに那覇市や読谷村、石垣島のクリエイティブ・ツーリズムに期待しているという言葉で講座が締められました。

編集記 多様性ある文化を育む「ヨソ者」と沖縄との関わり方

創造都市における「官公庁」と「マイノリティ」との関わり方など、身近な問題について質問が挙がった。

「石垣島を事例として挙げていましたが、どういったところに注目しているか」と受講生から質問が挙がると、佐々木さんはこのように伝えます。

「石垣島には何度か訪問し、島をクリエイティブの力で盛り上げようとしている『石垣島 Creative Flag』の取り組みも見学させてもらいました。地元の伝統工芸品をパッケージごとクリエイティブな方にデザインしてもらうなど、これから、地元の職人たちと関わりを深めて、地域に居住してもらうで、新しい文化観光のツーリズムを構築できると思います」

創造都市を実現していくには、地元で伝統工芸を作り続ける職人たちと、外から移住してきた「ヨソ者」がどう交流していくかがポイントです。佐々木さんも、ボローニャやニューヨーク、金沢、大阪、東京とさまざまな地域や大学を横断しながら、地元の方と交流して、エッセンスを学んできました。

沖縄は、過去を遡れば琉球王朝時代に、周辺のアジア諸国からヨソ者を受け入れて、多様性ある土壌を作ってきました。しかし現在、地域によっては、移住者をヨソ者として分断してしまっているところもあるように感じます。

マイノリティの1つであるヨソ者を受けられるような、開放的で、寛容的な地域づくりを沖縄でも実現することで、さまざまな才能が集まる多様性ある地域になるのではないかと可能性を感じる時間になりました。

(取材・撮影、文: 水澤陽介)

事務局から

8月29日に「アーツマネジメント研修派遣修了者報告会」、特別講座トークセッション「地域コミュニティと芸術~場づくりを支える」を沖縄市民会館中ホールで開催します。

昨年度、KAAT神奈川芸術劇場、三陸国際芸術祭事務局でそれぞれ研修を行った2名の研修者が、研修と現在の活動について報告します。特別講座トークセッションでは、全国でダンスと社会をつなぐ活動をしている一方、三陸国際芸術祭のプロデューサーでもある佐東範一さん、足立区(東京都)でアートでコミュニティをつなぐ活動を展開している吉田武司さんをゲストに、沖縄市の取組みについてもうかがいます。ぜひ、お申し込みの上、ご来場ください。

8/29アーツマネジメント研修派遣研修者修了報告会

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