GEIDANKYO 公益社団法人 日本芸能実演家団体協議会[芸団協] 芸能花伝舎 沖縄県

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2015.07.24

アーツマネジメント連続講座 講座⑤『芸術団体、劇場等とのネットワークづくり』6月8日レポート

講座⑤は、「共同制作」「巡回公演」をキーワードに、積極的な自主事業を行っている2つの文化施設の方をお招きし、意見交換もまじえながら『芸術団体、劇場等とのネットワークづくり』について。

2012年に施行された「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」(通称:劇場法)に基づく「劇場、音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針」(2013年)では、施設の設置者又は運営者の取組に関する事項として以下のように示されています。

利用者に対しより質の高い実演芸術の公演を鑑賞する機会を提供する観点から、他の劇場、音楽堂等及び実演芸術団体等と連携協力し、共同制作、巡回公演、技術提供その他の取組や情報交換を行うとともに、施設の効果的な活用等について検討すること
(「劇場、音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針」より引用)


まず講座の前段として、芸団協・藤原職員より、上記の指針に掲げられた「劇場、音楽堂等と芸術団体の連携協力」に関わる報告をしました。この報告は、芸団協が文化庁との共催で実施した「全国劇場・音楽堂等連携フォーラム2013」(2013年7月)において議論された要点をまとめたもので、連携協力の在り方としてフォーラムでは共同制作、巡回公演、本拠地提携についての事例報告や意見交換が行われています。ここでは主に、劇場・音楽堂等の文化施設と、劇団やオーケストラ等の芸術団体が、拠点契約(本拠地提携)を結ぶことのメリットと課題についてお話ししました。

DSC08894共同制作、巡回公演については、講師のお二人から、事例紹介も含めて詳しくお話しいただきました。
まず、共同制作についてお話しくださったのは、東京芸術劇場 音楽企画制作の中村よしきさん。
中村さんは、本年度、全国ツアー公演が行われている『全国共同制作プロジェクト モーツァルト歌劇「フィガロの結婚」~庭師は見た!~』(以下『フィガロの結婚」)をはじめ、これまでも共同制作オペラの制作に携わってこられました。
この『フィガロの結婚』は、指揮に井上道義さん、演出に野田秀樹さんという豪華な顔ぶれで、全国10か所13公演にもなる壮大なプロジェクトです。5/26(火)の金沢歌劇座(石川県)での公演を皮切りに全国ツアーの真っ最中で、公演の合間をぬって沖縄へ駆けつけてくださいました。

東京芸術劇場は読売日本交響楽団と事業提携に基づいて2007年より「シアターオペラ」と呼ばれるシリーズを制作していますが、予算的にはかなり厳しい状況が続いたそうです。そんな折に文化庁「劇場音楽堂等活性化事業」が始動しました。同時期に、「シアターオペラ」の指揮をされていた井上道義さんから石川県立音楽堂との共同制作のご提案があり、この「劇場音楽堂等活性化事業」の枠組みのひとつである「共同制作支援事業」への申請をしたところから、今日に至る本格的な共同制作が始まったそうです。採択が決まり、全体経費の半分に相当する補助金が得られ、さらに残りの経費も折半できるようになったことで、1館だけでは難しかった安定した事業実施が可能になったそうです。
年々、共同制作でともに創る館、公演都市の範囲を拡大し、事業規模も飛躍的に伸張しました。
そして、今年の『フィガロの結婚』では、全国10か所13公演という国内史上最大規模のオペラ公演の共同制作となったのです。。
この日は、今まさに現場で起こっているトラブルやハプニング等のエピソードも赤裸々にお話しくださいました。

共同制作の最大のメリットは、経費負担が抑えられることです。
ひとつの文化施設・芸術団体では実施が難しい規模の公演も、経費が分担できることで、実施の可能性が見えてきます。旅費や運搬費も折半できれば、オペラのような人数や舞台セットが大きく移動費がかかることが大きな要因で大都市に集中しがちだった公演を、他地域の都市でも上演し得る可能性が広がります。地域間の文化格差の抑制にもつながります。

しかし、異なる地域・生活環境の文化施設・芸術団体が手を携えてひとつの作品をつくることは、容易なことではありません。共同といえども、どこかの施設または団体が、幹事を務め統括すること(リーダーを務めること)は必要になるでしょう。ともに創る館が増えていけば、それだけお互いに交渉を要する事案も増えます。
また、公演回数や移動が増えることは、出演者にかかる負担やストレスも大きくなるため、慎重なケアが必須になります。

「どうすれば共同制作はうまくいくか」という受講者からの質問に、中村さんは「口角泡を飛ばして、徹底的に議論を交わすこと。特に金銭面は妥協せずに話し合うことがなによりも重要」と率直に答えられました。時には衝突もあるかも知れませんが、それを乗り越えて初めて、本当の意味での「共同制作」ができるようになるとお話しくださいました。

現在も全国各地で大規模な劇場・音楽堂等の文化施設が建設されていますが、立派なハードに比して、ソフトは充実しているとは言い難い状況が続いてきました。共同制作は、この現状の最も有効な打開策のひとつとして、今後のさらなる発展が期待されます。

DSC08919つづいて、「巡回公演」については、兵庫県立芸術文化センター事業部プロデューサーの安田江さんにお話しいただきました。

複数の文化施設や芸術団体が共同でひとつの作品をつくり上げるのが「共同制作」、ひとつの文化施設または芸術団体がつくった作品を複数の地域の文化施設等で上演していくのが「巡回公演」です。
巡回公演についても、文化庁「劇場音楽堂等活性化事業」の枠組みの中に「ネットワーク構築支援事業」という助成プログラムがあります。
この「ネットワーク構築支援事業」の助成対象となるのは、2つ以上の都道府県にまたがるツアー公演で、交通費、宿泊費、運搬費等の移動にかかる経費が助成対象経費となっています。

巡回公演と共同制作の意義やメリットは多くの共通点を持っています。
ツアー公演の一番の悩みである移動費が補助されることにより、大都市まで行かなくては観られなかった規模の作品が地方都市でも上演できる可能性が広がります。事業費の一部が補助されることで、チケット料金を少しでも低価にすることも考えられます。鑑賞機会の拡大につながるのではないでしょうか。

ただ一方で、巡回公演の促進について、都市部に集中しがちな一部の創造型の文化施設等が制作した作品を巡回させることは、地方の劇場が持つ制作能力を低下させてしまうのではないか、という指摘もあります。
しかし、規模や地域の差を超えて、文化施設同士や芸術団体とのネットワークが広がることによって、ノウハウが共有されることも、共同制作、巡回公演の重要な意義のひとつです。
それぞれのノウハウを足掛かりに、さらにオリジナリティをも高められるよう活動展開させていくことが出来れば、巡回公演の意義は十分に果たされたといえるのではないでしょうか。

中村さんも安田さんも、沖縄の文化施設や芸術団体との共同制作、巡回公演、といった事業展開を強く希望されていらっしゃいました。
沖縄にはそれだけ、ともに事業を起こしていける可能性と魅力があふれています。
ネットワークの構築というと、どう手をつけていけば良いかと迷うかもしれませんが、まずは人と人とがつながるところから始まるのではないでしょうか。
この連続講座が、その契機のひとつとなることを願うとともに、これから地域をも超えたたくさんのプロジェクトが誕生することを期待しています。
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